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福岡高等裁判所 平成7年(ネ)1030号 判決

控訴人

シャープファイナンス株式会社

右代表者代表取締役

今田昭七

右代理人支配人

津地哲男

右訴訟代理人弁護士

吉野正

宮下和彦

被控訴人

有限会社寿屋酒店

右代表者代表取締役

田中五郎

右訴訟代理人弁護士

城谷公威

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴の趣旨

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  事案の概要

本件の事案の概要は、以下に付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要等」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決二枚目裏六行目に「第二号証、」とある次に「乙第四号証、」と加える。

2  原判決三枚目裏一〇行目に「昭和六二年七月一日に納入されている。」とあるのを「昭和六二年七月九日までに引渡しが完了している。」と、同一一行目に「同日付けの」とあるのを「同月一日付けの」と、それぞれ改める。

三  証拠関係

原審及び当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

四  主たる争点等に対する当裁判所の判断

当裁判所は、本件リース契約のようないわゆるファイナンスリース契約にあっては、その性質に鑑み、リース業者たる控訴人は、通常の賃貸借における賃貸人と同様の目的物の引渡義務を負うものではないが、リース契約が賃貸借の形式をとっていることや、本件リース契約の具体的な定めに照らし、後述のような限定された意味でのリース物件の引渡義務を負うと解するべきであるから、リース物件の納入が全くなされていない場合には、リース契約の契約期間が開始せず、賃借人である被控訴人はリース料の支払債務を負わないとともに、リース物件の引渡しがないことを理由にリース契約を解除して支払ったリース料の返還を求めることができるというべきところ、本件の事実関係及び本件リース物件がソフトウェアの開発を必要とするコンピュータであるという特質等に照らすと、被控訴人が控訴人に対して既払のリース料の返還を求めることが権利濫用又は信義則に反するとは認められないから、少なくとも被控訴人が原審口頭弁論期日でした本件リース契約の解除の意思表示は有効であり、被控訴人の原状回復の請求は理由があると判断する。その判断の理由は、以下に付加、訂正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第三 主たる争点等に対する当裁判所の判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四枚目裏一行目に「原告代表者田中一郎の父田中五郎」とあるのを「被控訴人代表者田中五郎」と、同二行目に「同人らのほか」とあるのを「同人及びその息子で被控訴人の代表取締役の一人である田中一郎のほか」と、それぞれ改める。

2  原判決六枚目裏五行目の「その実質は、」から同六行目の「評価でき、」までを「その実質は、被控訴人が本件リース物件を九州OAシステムから購入することに代えて、控訴人が本件リース物件を自己資金で購入して、これを被控訴人に賃貸し、その賃料の名目で本件リース物件の購入資金を回収するという形で、控訴人が被控訴人に対して、本件リース物件の購入資金を融資したのと同一の効果を得ようとするものと評価でき、」と改める。

3  原判決七枚目表一行目の冒頭から同八枚目表一〇行目の末尾までを、以下のとおり改める。

「3 控訴人は、右の本件リース契約の実質及び本件リース契約に「特約店からの引渡しが遅延したときでも、控訴人はその責任を負わない。」との約定があること(六条二項)などから、控訴人には本件リース物件の引渡義務はないと主張する。

確かに、前示のとおり、一般的にリース契約が通常の賃貸借とは異なり金融としての性質を強く有すること、通常、リース物件は供給業者が顧客に直接納入し、リース業者はりース物件の直接の占有を取得しないこと、さらには、本件リース契約に前記のような条項が含まれていることなどからすると、リース業者は、通常の賃貸借の賃貸人と同様の意味で賃貸借の目的物を引き渡す債務があるということはできない。

しかしながら、リース契約において、リース業者は、リース物件の所有権を留保し、これを顧客に賃貸するという法的形式をとることによって、リース料債務が不履行となった際には、強制換価手続をとることなく、契約を解除してリース物件を引上げ、残リース料に充当することができること(本件リース契約の一九条ないし二一条)、リース物件の現状変更や転貸を禁ずることにより、リース物件の担保価値の維持を図ることができること(同一四条、一五条)など、自己の債権保全のために利益を受けているのである。してみると、リース契約におけるリース業者の地位を、金銭消費貸借契約における貸主の立場と全く同一と解するのは相当ではなく、顧客の利益との調和を図る限度では、賃貸借契約における賃貸人の権利義務も併有しているものと解するのが実情に合致するというべきである。

この観点から本件リース契約をみるに、本件リース契約には、前示の各条項のほか、リース期間は被控訴人がリース物件の検収を完了した日から起算するとされていること(二条)、被控訴人は一定の制限された範囲ではあるがリース物件の瑕疵を控訴人に対して主張できるとされていること(六条一項)、リース物件の瑕疵にかかる損害賠償請求権は、控訴人が第一次的に取得し、これを被控訴人に譲渡するとされていること(六条三項)など、本件リース契約は、顧客(ユーザー)の立場からみても、賃貸借契約としての実質を相当程度に備えているものということができる。また、控訴人の指摘する前記の控訴人(賃貸人)がリース物件の引渡しの遅延について責任を負わない旨の条項(六条二項)についても、その文言に照らし、控訴人はリース物件の引渡しの遅延による損害賠償債務を負わないことを宣言したに止まると解することが相当であって、引渡義務自体を明示的に否定したものと解することはできない。

そうすると、少なくとも、本件リース契約にあっては、本件リース物件の現実の引渡しがない限り、控訴人が特約店にリース物件の代金を支払うと否とにかかわらず、被控訴人においてリース料を支払う義務は発生しないというべきであり、その限りで、控訴人は、被控訴人に対して本件リース物件の引渡義務を負うと解するべきである。」

4  原判決八枚目裏二行目に「証人清家、原告代表者」とあるのを「原審証人清家嘉信、当審証人甲斐政司、原審における被控訴人代表者田中一郎」と、同八行目に「原告」とあるのを「被控訴人代表者田中一郎」と、同九行目に「検収を終了したとして」とあるのを「検収を完了したとして被控訴人代表者田中五郎名で」と、同九枚目表三行目に「支払を停止したが、」とあるのを「支払を停止することを含めて清家に対して苦情を申し立て、」と、それぞれ改め、同七行目に「中尾は、」とある前に「被控訴人は、本件リース物件の納入がなされないことから、本件リース契約を解約しようと考えるようになり、さらに、本件リース物件が転売されているとまで聞いたことをきっかけに、その解約を決意したものであるが、」と加え、同一〇枚目表一行目の次に、改行の上、次のとおり加える。

「(九) 本件のような、特定の営業の主体である顧客が営業活動に利用するためのコンピュータのリース契約においては、ソフトウェアの開発が不可欠であり、ソフト開発のため、顧客がリース物件の導入を決定した後、リース物件が顧客に引き渡されるまでに相当の時間を要する場合があり得るが、そのような場合、控訴人においては、ソフトウェアが完成して顧客に引き渡され完全に稼働してから、リース契約を締結するか、リース期間を開始するという取扱いがなされており、昭和六一年から平成五年まで、控訴人の長崎クレジットセンターの所長をしていた甲斐政司においては、リース物件が引き渡されていない旨の苦情を受けたことはなかったこと。」

5  原判決一〇枚目表八行目から九行目にかけて「これだけ多くの苦情を持ちかけられたといわれている本件契約のようなリース契約」とあるのを「前示のとおり、清家において、控訴人における一般的な取扱いとは異なり、本件リース物件が現実に納入されていないことを承知した上で本件リース契約を締結した場合であり、かつ、リース料の支払が開始された後にも、被控訴人代表者田中一郎から、本件リース物件が納入されていないことの苦情を繰り返し申し立てられ、清家が本件リース物件の納入を促す旨の約束をすることで、リース料の支払が継続されているとの事実が明らかである本件契約」と改める。

6  原判決一〇枚目裏四行目に「物件受領証を交付していること、」とあるのを「本件契約書中の物件受領書欄に署名押印していること、リース中途解約申出書を作成提出していること、買約証兼物件受領証が作成されていること、」と、同八行目の「前者」を「右のうち、物件受領書欄の署名捺印の点」と、同一一枚目表二行目の「後者についても、」とあるのを「また、リース中途解約申出書が交付されたのは、前示のとおり、まさに本件リース物件が納入されなかったからこそなされたものであって、これをもって本件リース物件が納入されたことを推認することはできない。さらに、買約証兼物件受領証は、控訴人とプロテックシステムとの間で交わされた書面であって、本件リース物件が被控訴人に納入されたかどうかとは無関係の書面であるし、被控訴人が本件リース料の支払を続けたことについても、」と、それぞれ改め、同七行目の末尾に「(なお、右買約証兼物件受領証の記載内容及び前認定の本件契約締結に至る経緯からすると、本件リース物件はプロテックシステムには引き渡されていた可能性があると考えられないではないが、仮にそうであったとしても、プロテックシステムは、本件リース物件にソフトウェアを組み込んだ上で被控訴人に納入すべき債務を負っていたものであって、被控訴人との関係ではリース契約の納入業者と同等の立場にあると認められ、本件リース物件をプロテックシステムが所持していたとしても、それをもって被控訴人に対する引渡しがあったと認めることはできない。)」を加える。

7  原判決一二枚目表五行目に「場合ではないこと、」とあるのを「場合でもなければ、納入業者の資金繰りに協力する目的で積極的に虚偽の物件受領書欄の作成に協力した場合でもないこと、」と改め、同九行目に「採用していること」とある次に「(特に、本件リース契約のようなコンピュータのリース契約では、ソフトウェアの開発のためにリース物件の納入が遅れることは十分予見できたものであり、右のような方式が不適切であることは明らかである。)」と加え、同一一行目に「にも拘らず、」とある次に「清家において、あえて控訴人の一般的な取扱いに反して物件受領書を作成させ、その結果」と加え、同裏四行目の「(即ち、」から同六行目の「いうべきである。)」までを削る。

8  原判決一二枚目裏八行目の冒頭から同九行目の末尾までを次のとおり改める。

「三 以上によれば、本件リース物件は、被控訴人に引き渡されておらず、その不履行は控訴人の責に帰すべきものということができるから、被控訴人は、控訴人の債務不履行を理由に本件リース契約を解除することができるというべきである。」

五  以上によれば、被控訴人の本訴請求は、被控訴人が支払ったリース料とこれに対する本件リース契約の解除の意思表示がなされた原審口頭弁論期日の翌日からの遅延損害金の支払を求める範囲内で認容することができ、これと同趣旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。

(裁判長裁判官 友納治夫 裁判官 有吉一郎 裁判官 松本清隆)

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